墨成

編集後記(2024年10月)

▼今年の中秋の名月は九月十七日で大きな満月が見られた。太陽の周りを回りながら自転する地球に、月は地球の周りを回っている。太陽の光をいっぱいに受けた月を、ある者は感性を揺さぶられ、ある者は宇宙の真理を解き明かそうとする。人間は月の下では平等だ。

▼「こんな良い月を一人で見て寝る」(山頭火)「月見ればちぢに物こそ悲しけれわが身ひとつの秋にはあらねど」(大江千里)等、月を見てわが身のみじめさやさみしさを表した俳人や歌人もいれば、「見る人に物のあはれをしらすれば月やこの世の鏡なるらん」(崇徳院)と不遇の身を、月に救いをゆだねた和歌も遺されている。書人も負けていない。

▼今月締め切り選書の創作課題は「月」。多彩な月が寄せられた。掲載以外にも満月に兎を模した月。雲に隠れているような月など、日常を離れ、日常を越えようとする創造の魂は、月と一体となった。美しい月は我が魂の中、感性を埋没させてはならぬ、と力作が寄せられた。

▼究極、書の愉しさは創造することにあるのではないだろうか。身体と一体になった筆を通して想像力を掻き立て、その過程を楽しむ。紙と筆を選び、墨を磨る。イメージする形に創造する。その時、素の自分を取り戻し、我が精神は躍動する自分に出合う。きっと。

(神原藍)