墨成

編集後記(2024年11月)

▼「打球をデザインする。打撃の質の先が見えた。」と、ドジャースの大谷選手の言葉は深い。バットの芯を捉えることは本質を捉えること、と野球に詳しくない者にも納得させる。大谷選手は世の中に活気を齎(もたら)し、新しい生命を吹き込み、日本人のプライドをも奮い立たせている。偉大な人間はスポーツの偉大さを示しているばかりではない。

▼「空海は民族社会的な存在でなく、人類的な存在だった」(司馬遼太郎『空海の風景』)「日本にいようがアフリカ大陸の一部落にいようが、いついかなる時代に存在しても通用してゆく」と。遠く1200 年前の空海に大谷選手を重ね合わせて思うのは、乱暴すぎるだろうか。「宇宙の原理を悪魔的なものとしてとらえず、絶対の智慧と慈悲という二大要素で出来上がっている」という空海が説いた密教の教えは人間を肯定する。

▼現代の子どものスポーツ教室では、身体を自在に操る俊敏性や体幹の強さ、体の柔軟性などを育成するプログラムに人気があるそうだ。密教から派生したとされるヨガポーズにも通じ、書にも通じる。文字は手首だけでは書けない。後期試験の作品は、筆幹をとらえた線、体幹を鍛えて醸し出された線の作品が寄せられた。身体のすべての細胞を集中させた線は潔い。体幹を鍛えた線は美しい。伸び代を培っている。

(神原藍)