墨成

編集後記(2024年9月)

▼熱い、暑い、あつい八月でした。オリンピックがあり、市場の暴落暴騰があり、米大統領の選挙運動が始まり、日本の首相も変わる。確率の高い地震の予告があり、連日の危険な暑さと温暖化によるゲリラ豪雨。激動する世の中で、私達一般市民はテレビに釘づけになった。

▼しかし、人類は進化をとめない。オリンピック選手は100分の一を競い合う。他でもなく己との闘いで、人間の持つ能力を遥かに超えて躍動する。それは試合を終えた選手の迸ほとばしる言葉にもあらわれる。選手は競技中に脳内をフル回転させているのだ。身体能力の高さに比例するかのようなメンタルの強さと技術の高さを、トップ選手は持ち合わせている。

▼ふっと、趙之謙(ちょうしけん)の書が浮かんできた。(「書と文化」)一分の隙もなく、全身全霊で体幹を使った線状。入筆は筆鋒から入れるのではなく、筆鋒を突きさすように逆に入れて、全ての筆毛を渾身の力で運筆している。平たい字形で太い横画は、王羲之の書を中心に学んできた者にとっては筆圧の強い横画と隙のない線条に圧倒される。彼は顔真卿から入り、包世臣(ほうせいしん)の論を徹底して学び尽くしていた。偉大な書人を師と仰いでいた。

▼トップアスリートはコーチの熱い指導で高みを極めている。人は人との関りで強く美しくなる。歴史に記憶を残す人間は、篤(あつ)い。

(神原藍)