墨成

編集後記(2024年2月)

▼鴨長明の『方丈記』の一節を生田博子先生は書かれ、新春展にご出品頂いた。世の中のものは常に移り変わり、いつまでも同じものはないという無常観を、淡々と確かな線で創られた。九〇歳を遥かに越えられての作品に息を飲んだ。大勢の米書研会員の方々のご指導をなさりながらの制作。博子先生の意欲に心からの敬意を払い、僭越ながら最大の賛辞を贈らせて頂いた。

▼琴線に触れた言葉との出会い、社会や他者、そして自己を深化させたいという希い、それらの意欲が自らに筆を執らせ、自らを駆り立てる。仕事とはそういった意志の結晶なのだとの思いに至る。祈りにも似ている。経済が最優先ではない。

▼後を追う私達は、これから巡ってくる老いを過剰に恐れているのかもしれない。足腰が衰え、記憶力が低下するのではないか、と。しかし引き金は全てが意欲の低下から来るのだという。意欲は内面を充実させ、育むに違いない。

▼仕事は意志があってこそ意思が伝わる。意志のないところに仕事は出来ない。書初めの教育部の作品、新春展作そして筆を何十年ぶりに執った方々の渾身の作品に目を奪われた。墨成を発行して今年で満三十五年。一度も休刊しないで発行を続けられたのも、確かな意志のある方々に支えられての事と痛感する。魂の繋がりに心から感謝します。(神原藍)