墨成

編集後記(2024年3月)

▼書は線の芸術であり、余白の芸術です。どのような余白が成されているかどうかは、どのような線条を創っているかどうかで、人の心に想像する世界を創ります。空間を斬っている線条は深いか浅いか、重厚か否かで線は深化しますが、美しい空間を醸し出している線条は強靭で美しい。美しいか否かは人それぞれの感性で異なりますが、線と余白は切っても切れない相関関係にあります。

▼強靭な線条はどのようにして鍛えるかと問われれば、古典の臨書が最適と言えます。品格のある美しさは古典で鍛えるのが一番ですが、漠然と写すのでは意味がなく、思い込みや我執を捨てて、古典の真髄を掴まなければならないでしょう。作品は品を作ると書きます。作品を創るとは、己の品格を創ることでしょうか。

▼黒と白が織り成す書は、墨と料紙と筆の合作で多彩な線条が醸しだされます。何万本という筆の毛は、幼稚な自分を映し出すかもしれません。愚かな己をさらけ出すかもしれません。そうして紙に映し出された今の自分を越えようと己に誓うでしょう。何百年と経てきた古典と対峙することで、己を鍛え上げるのです。

▼人生は黒と白だけでは表せない複雑な色が絡みあい、端的な黒と白で、簡単には表せないと気付きます。しかし墨に五彩あり。不可解な魔物も潜んでいます。(神原藍)