墨成

編集後記(2022年9月)

▼音楽を観る。書を聴く。音楽と書は内なる感性で繋がるものがあります。音符の“ピアニッシモPP“は大変弱くではなく、ピーンと張りつめた繊細でありながら強靭な音、聴く者の琴線に触れる音、魂を揺さぶるような音。名演奏家のPP は演奏家と聴衆の共感を呼び寄せる音色に感じます。

▼翻って古筆の『一条摂政集』には、名書家のPP が浮かんできます。強さだけではないリズム感、太さだけでは表せない気迫や筆力の素晴らしさ。PP の快調な流れとリズムで奏でられています。古筆の中でも群を抜いていて、高雅で美しい線状や見事な連綿には驚くばかり。

▼一条は藤原伊尹(これただ)〈924~972〉個人の和歌を収録した家集で、伊尹の屋敷が一条にあった事から一条摂政集と呼びます。西行〈1118~1190〉が書いたのではなく、俊成の書写スタッフによって書かれたと考察されています。

▼中国から漢詩文と共に漢字が伝えられ、当時文字がなかった日本語に漢字の音を当てていました。「あ」は「安」から生まれましたが「安」以外に「阿・悪・愛」などの文字も当てられ、『万葉集』はこの方法で書かれ、万葉仮名と呼ばれています。その後仮名は約四百年の星霜を経て和歌と共に洗練され、最高峰の一つの一条摂政集が生まれました。

▼憧れに一歩でも近づきたいと願うばかりです。(神原藍)