墨成

編集後記(2022年8月)

▼悲惨な事件が起こるたびに、本質を見出せなかったであろう人生を感じ、悲しくやるせない気持ちになります。一番大切なものを失ってしまったのだろうか、信頼できる人に出会えなかったのか。本質を見極める心があれば、思いとどまることができたのではないか、と思うのです。

▼ものごとの美しさを見出すことが本質を見つける第一でしょうか。しかし直感的に「これは本物だ」、と分かる時もあるのでしょうが、不安や迷いを抱えている時は難しく、「これは素晴らしい」「これはあなたの為です」とお為ためごかしに言われたら、自分の美意識も揺らいでしまうのではないかと思えます。心の底から「美しい」と納得するものを見つける常日頃の営みこそ、本質を見つける手立てかもしれません。

▼感性を磨く。感覚を育てる。知恵を蓄える。そういったことを小さい頃から習慣として本物の美しさに触れることも、大切であると考えます。美術や音楽などの芸術の分野だけではなく、人としての振舞や努力している姿に美を感じることも、本質を知る力を育むことでしょう。

▼しかし何よりも、美しさの対極にある言葉の暴力をはじめ、あらゆる暴力に毅然と立ち向かう勇気を持ち、自己および他者の暴力を拒絶する心を持ち続けることこそ、本質を捉えるための最高のレッスンかもしれません。(神原藍)