墨成

編集後記(2021年10月)

▼ワクチンの副作用なのだろうか、左腕の上腕筋が張ってきた。左指も痺れる。無理をしないようにと暫く運動を控えていたら、肩甲骨から首筋まで痛みが増してきた。これが副作用の症状なのだろうか。痛みと倦怠感は意欲を失わせる。どうにもならない身が情けなく、どうにかせねばと逸る心と怠惰な身の板挟みにあいながら、歩くことを我が身に課した。

▼歩き始めの身体は重い身体を引きずるような気持だった。それがどうしたことだろう。何の信仰心もなかった私が、杜(やしろ)の中の見たこともない産土(うぶすな)に畏敬の念を持ち始めている。森の魅力に誘われ、百日も通わないうちに足が軽くなってきた。気が付けば腕や首の張りもなくなっている。痛みは抱えながら歩き続けるものなのか。祈りはお願いから感謝に変わってきた。

▼世界中の人達がコロナと闘っている。その中で、墨成で学ぶ方たちは毎月作品を寄せられる。何か不思議な豊かさに包まれてくる。倦怠感を振り払って、筆を持って文字を書く。現実的な意味では何の利益ももたらさないのに、コロナをモノともせずに、墨で字を書いている。 “世界全体が幸福にならないうちは、個人の幸福はあり得ない”と宮沢賢治の遺した言葉が蘇ってきた。

▼汀女の句を捩(もじ)った句がふと浮かんできた。「外にも出よ触るるばかりに茜空……」 (神原藍)