墨成

編集後記(2021年8月)

▼東京五輪の開会式は簡素ながら、五十体のピクトグラム(絵文字)には感動しました。原型は五十七年前の東京オリンピックで最初に創られたと知り、日本人の文字への感性の豊かさを再認識しました。抽象化された絵文字は競技種目が分かり、躍動感が感じられます。漢字の象形文字に似ていますが、この絵文字には動詞も含まれているようです。

▼中国で生まれた漢字は、単なる文字の記号ではなく、一字に意味を持ち、美の様式を持ち、思想の表現も含まれています。字数は多く、諸橋轍次編纂の『大漢和辞典』は、四万八九〇二字数の漢字が編纂されていますが、三分の二は用例もなく使われず、まるで文化遺産のようです。しかし現在の中国では、宝の山の漢字は使われず、意味を持たない簡体字となりました。簡体字には文字の美が感じられず、残念な気もします。

▼約一五〇〇年前に日本に到来した漢字は、日本語にあった訓読みが加えられ、およそ百年かけて現在も使われているかなが出来ました。古筆の何も書かれない余白は、想像力を育む空間に思えます。

▼現在、日本語は、漢字、かな、カタカナ、そして和製英語などを採り込んだ言葉・文字を使っています。戦後、ローマ字だけを使わせようとした外圧の危機を乗り越えた先人の叡智に、感謝するばかりです。(神原藍)