墨成

編集後記(2021年7月)

▼篠田桃紅先生が百七歳の天寿を全うされた。 “心の師”と私は勝手に仰いでいた。可能な限り個展に駆けつけ、独創的な作品に心を震わせた。制作への情熱、想像力を膨らませる作品、エッセーからは潔さが溢れている。憧れを抱きながらも、現実は眩しいばかり。

▼「自分の生き方は自分が生みだしていかなければいけない。誰かの影響をうけてお手本のようにやっているっていうのは、図々しすぎるし、横着すぎる。自分で苦しんで、自分で摑んでいかなきゃ。(著書より)」孤高に毅然として立つ姿は凜としていた。

▼桃紅先生は少女時代から自分に正直で、自分の意思を大切にされた。親や社会に逆らうというよりも、権威に寄りかからず、自らを見つめる眼で生きた。独身を貫き四十代で単身ニューヨークに渡り個展を開く。「自分はこうやりたいと思ったからやっちゃう、というやり方で生きたほうがいい。だから客観的に自分を動かさないで、主観的に自分を動かす。(著書より)」

▼生き方も作品も己を貫いた。「持っているものに感謝すればいいのに、持っているものは当然で、無いものを欲しがる。賢い人は、達観して無いものねだりをしないんだと思う。自分はこの程度なんだと思って。(著書より)」繊細でありながら豪快な作品は先生の生き方の顕れである。ご冥福をお祈り申し上げます。(神原藍)