墨成

編集後記(2021年3月)

▼新春展の出品作品で遊戯三昧(ゆげざんまい)の境地に入られた四人の方々の感想を頂きました。遊戯は「心にまかせて自在にふるまうこと」、三昧は「一心不乱に事をするさま」『広辞苑』とあります。

▼尾関里美先生はかなを専門に研究され、門人の方々にも古筆に裏打ちされたかなの指導をされておられます。今回の門人の方々のかな作品は先生自らの手で裏打ちを施した愛情の籠もった作品群でした。

▼「遊免(ゆめ)」を書かれた桜井知子さんは「夢」を変体仮名に変換して小字数書として制作。それこそ遊戯三昧の妙を表した柔らかな感性が光っています。

▼中尾千祥先生は独特な御指導をされ、門人の方々の言葉の選び方も斬新です。楽しまなければ、と書く事の楽しさを強調し、「異端性、滑稽性、妙味性」と高度な精神性を追求されています。

▼横部慈奈さんは日本語圏外に住んで居ながら和歌を嗜んでいます。語彙が豊富で、「妣」を大字で力強く書き、亡きお母様を詠った短歌を添えました。【「妣」は歿したる母なり。父には孝。】(白川静『字通』)

▼利休に「守破離」の言葉があります。守って破って離れる。芸能や武道におけるプロセスを表わしますが、四人の方々の「遊戯三昧」の境地は「守破離」の結晶でしょうか。上田桑鳩先生の「新しくても安物は創るな」の精神に通じるものがあります。(神原藍)