墨成

編集後記(2020年8月)

▼新型コロナは、細菌が体内にある陽性でも症状が現れないことが不安を掻き立てています。ひとたび発病すれば、たちまち死の恐怖が押し寄せてくるのです。一方、ある研究者チームでは、健康な人の全身に少なくても39種類のウイルスが居着いていることを突き止めたそうです。発病しない健康な感染者は、悪玉菌と内なる闘いをしていて、抵抗力が無くなれば病に陥ってしまうということです。
▼それは相反するものや葛藤を抱えながらも生き抜く人間の健気さにも似ています。善と悪、美と醜、真実と偽り、それらの混沌とした世の中にあって、人はどう生きるか。人間とは何か、人間の尊厳とは何か、とコロナに強烈なパンチを喰らったように思えます。
▼パンチを避けるのには私達一人ひとりが自立し、本当のものを見いだし、美しいものを感じ取り、真っ当に生きる。他を傷つけず、自らの生きる力を育てる。それらすべてを育むものが、究極の教育ではないでしょうか。
▼今回、多くの方々が昇段級試験を受けられました。中でも教育部の手本課題は書の実力を知る鍵。未熟なもの精錬されていないものが無垢な子供達の手本であって良いわけはありません。形だけではなく、躍動し、墨の黒が真っ白な空間を斬るようなもの、充実した創造的なものが求められると考えます。

(神原藍)