墨成

編集後記(2020年7月)

▼良寛の書は、一見、細い線がか細く弱弱し気に見える。しかし、実際に良寛の作品を直に観た瞬間、私の身体に閃光が走った。細い線の中には良寛の屈強な魂がのりうつっていた。周りがどうあろうと、世の中がどんなに変化しようと、良寛のしなやかでありながらも勁い精神は、簡単に折れない。要らないものをかなぐり捨てて、和歌を詠み、書に打ち込んだ良寛の書は静かに立っていた。

▼良寛は万葉集を精読し、懐素の書を沁みこませ、良寛独特の書を創りだした。良寛には贋作も多いと聞くが、鋭いタッチと微妙な余白、とぼけたような洒脱さを持つ良寛の書を誰が真似をできるだろうか。形は真似ても魂は入りこめないに違いない。

▼「悟りとは・・独自の花を咲かせることだ」を書にした鈴木知足先生は新潟越後で知足の会を主宰されている。自己愛に溺れがちな書制作にあって、会員の方々はシナジー効果をあげておられる。誰にも支配されず誰をも支配せず、あらゆることに主体的。良寛を慈しんだ新潟の風土が生きている。葛藤や矛盾を抱えながらも昇華された書は温かく美しい。

▼晩年、良寛は響きの美しい書を遺した。「草庵雪夜作 回首七十有餘年 人間是非飽看 破往來跡幽深 夜雪一柱線香 古窓下」満身痩躯の良寛であったろうからこその作品であると思う。(神原藍)