墨成

編集後記(2020年1月)

▼明けましておめでとうございます。今年は激動の年になる予感がしますが、現実に惑わされずに淡々と筆を持ってゆければと思います。表紙課題は王羲之の『十七帖』、古筆は『寸松庵色紙』を学びます。どちらの古典も墨が紙に食い込むような深い筆致、大胆に繊細に技術を 習得できればと思います。

▼“賢者は歴史から学び、愚者は経験から学ぶ”といわれます。経験から学ぶ事さえ容易ではありませんが、歴史から学ぶという事は覚悟がいります。書の場合は古典から学ぶこと。書かれた歴史的背景や書人の人間性なども、理解を深めていけば書の深遠に迫れるのではないでしょうか。

▼古典を学ぶ第一は観察。謙虚にその古典の特色は何かと観察します。他人を見るときもその人の表面や低さを見るのではなく、その人の高さを見てこそ、自分が高められるのだそうです。人の低さを見てあれこれ批判することは、自分が愚かで努力していないことに目をつむり、自分はああいう人間よりも高いのだと思いたがっているからだそうです。

▼次に忍耐。指や腕、身体や脳内に新しい回路と筋肉をつくるような意識的な練習。技術は簡単に身に付きませんが、線状は努力に比例します。

▼五輪の年。現実に惑わされながら、アスリートの限界への挑戦をたっぷり観ることになるでしょう。

(神原藍)