編集後記(2024年6月)
▼書と文化に掲載させて頂いた山崎大砲先生は、手島右卿先生と共に現代感覚による造形書「象書」を掲げ書道界を牽引された。現代書のパイオニアであられた。重厚で豪放な作品、繊細で緻密な書線が織り成す作品、ボリュウムのある美しい淡墨作、コクある濃墨作、どれもが情熱的であり、霊気を漂わせている。無限に広がる書表現に驚嘆したことを覚えている。
▼謙虚な人柄ながらも一世を風靡した先生の代表作満載の作品集が我書棚にも鎮座している。先生亡きあとに門人の方々でつくられた大判の作品集は、紫布地のハードカバーに表紙裏は艶やかなサーモンピンク。朴訥なお人柄と勝手に思い込んでいたが、門下生の方々は、柔和で純朴な中に人間としての温かさを感じておられたのだろう。
▼豊穣な作品の土台となったのは、古典と真っ向から対峙した事だという。書の作家的自負と情熱は、動かぬ古典を実際に写しとることで得たという。粛然と動かない古典は勝手な解釈でどうなるものではないが、大砲先生は緻密な観察と反故を重ねることで、真理と美を見出し、現代書に投影された。
▼何千年と続いてきた書の歴史は、真実を求め、一途に歩んだ先人によって歴史が創られている。現代書の礎も、人々から敬愛されてこそ、作品と共に語り継がれるのだと痛感している。(神原藍)