墨成

編集後記(2023年6月)

▼今月号より有段漢字課題は懐素「草書千字文」を学びます。千字文は「天地玄黄」から「焉哉乎也」まで、四字を一句として韻を含む句で成り立っています。漢詩の作者は周興嗣(470 ~ 521)。中国南朝・梁の武帝が文章の上手な周興嗣に作らせました。天文、地理、政治、経済、社会、歴史、倫理などの森羅万象について書かれた文で、すべて異なる1千字の漢字が使われています。一夜で千字文を考えて皇帝に進上した時には、周興嗣は白髪になっていたと伝えられています。

▼懐素の他に智永、褚遂良、米元章等々、日本では貫名菘翁、日下部鳴鶴など多くの書家が書いています。書体も篆書、隷書、楷書、草書で千字文を書いて並べた『四体千字文』などもあり、日本のいろは歌のように、数字のようにも用いられました。

▼千字文を学んできた先人は、文字を覚えるだけではなく、書を通して知識や知恵を得て美学を身につけてきました。学書が果たす役割の重さを考えさせられます。

▼今月号小学一年生課題は「土」。自分の心を耕すように肚に力を入れて横線、縦線を書くことを体感してほしいと思います。

▼書はきれいな字を書くだけが目的ではなく、筆に一心を込めれば集中力と瞬発力が身につきます。そうして書き通した後には達成感も味わいます。自己肯定力も自己抑制力にも繋がる、と書の力を信じています。(神原藍)