墨成

編集後記(2023年4月)

▼今回のWBCは普段野球を見ない人も夢中になってテレビに見入った、という人が多いと聞いた。私もその一人。日本が優勝し、試合が終わってからも高揚した嬉しい気持ちがおさまらない。

▼野球がこんなにタフなスポーツであり、かつまた繊細だということを初めて知った。こんなにも世界中の人々を虜にしてしまうこと、これも改めて知った。負かされたチームの監督が「これは野球の勝利だ」と言うのにも合点がいく。一人ひとりの能力、技術、精神力を限界ぎりぎりまで出し切り、またその上にチームが一体とならねばならないスポーツが野球なのだ。人と人との信頼が勝負を決めた。

▼世界中に疫病が蔓延し、その上戦争は終わろうともしない。不安と恐怖を誰もが抱えている。だからと言って委縮するな、憧れるのではなく自分の力を出し切れ、と鼓舞する。海の向こうから見る日本は、とても小さく見えるのではないだろうか。日本人は持てる力を出し切っていないのではないかとも思える。大谷翔平選手の一挙手一投足に目を奪われ、侍ジャパンの内なる力に心を奪われた。

▼今の自分を超えろ、最後まで諦めるな、自分を超えてこそ夢見る世界はあるのだ、運命を拓くのだ、と。誰よりも練習を積み、心身を鍛えぬいてきた強靭な精神力の持ち主は、望洋とした世界を見渡している。 (神原藍)。