墨成

編集後記(2022年1月)

▼二〇二二年の幕が開けました。昨年はコロナで明け、新コロナで暮れた一年でしたが、コロナにも馴れてきたような気持ちになりました。それも仕方がないことのようにも思え、小さな幸せを見つけて日々を過ごすのも、激動する世の中を生きる術なのかもしれません。小林一茶の「目出度さも中くらい也おらが春」の句は、現代の世の中を生きる処方箋の言葉にも思えます。

▼この句は、一茶の愛児の生と死を主題とした俳文「おらが春」に入っている代表作で、渾身の作であるとされています。しかし、一茶は家庭的には決して幸せとは言えず、その愛娘をも幼くして亡くしています。芭蕉、蕪村と並んで江戸時代の俳人としての名声を得ながら、一茶の句は苦労の連続の一生だった彼の生活から滲み出た作品が多く、ありのままの姿で生き抜くことを句に吟じています。

▼創作の原点は我が身を客観視することが第一ですが、想像できる心の中にこそ、広い世界があると考えています。現実を、世の中を、「虫の目」「鳥の目」「魚の目」で見る鑑賞眼は、誰にも侵すことが出来ない心眼と言えます。

▼熟睡して目覚めた朝の爽やかさ、大自然に触れた時の大らかさ、作業を終えた時の開放感、こんな小さなことが自分を支えているのかもしれません。が、何事も誠実さと品性を失わず、と誓うのです。(神原藍)