墨成

編集後記(2021年5月)

▼春爛漫のこの季節、五月号は創作・高校生・中学生課題に「愛」が入りました。季節にも年齢にも関係なく、「愛こそが現実の社会生活の中で幸福に生きてゆくための最高の技術である」とエーリッヒ・フロムは云います。しかし、現実の世界は何と純粋な愛とは離れているのでしょう。コロナが蔓延するのではないかと懸念する中、為政者の市民への愛が薄いとも言い切れませんが、世の中は不満が鬱積しているように感じます。

▼日本の子どもの幸福度がユニセフ38カ国の中で最低水準という統計も気になります。子ども自身に肯定感が少ないことが反映しているのでしょうか。子ども自身が自分を誇り自分を愛することは、周りの大人自身が己に肯定感を持ち、自分を愛する技術を持つことが必要に思われます。

▼大人自身が自分を愛していなければ、子を愛することなどできないでしょう。愛するということは客観的な視野に立って愛を育めるか、と問われます。単なる感情や自分しか見えない利己的なものではなく、純粋な愛に基づいているか、と決意と決断を迫られます。

▼愛という言葉の陰には泥臭く地道な責任が伴いますが、深海の底を覗くような、青天を衝くような愛の深さを知ったなら、厳しい世も愛という心の中の軸を得て越えられるのではないか。愛は免疫力をも活性化させるそうです。(神原藍)