墨成

編集後記(2023年9月)

▼今年は残酷な夏だった。コペルニクス気候変動サービスの発表によれば観測史上最高となり、古気候学者によれば七月の平均気温は12 万年ぶりの暑さだったという。近年、百年に一度、千年に一度という言葉をよく耳にしていた。が、途方もない数字に一体全体、地球に住む人類はどうなるのだろうという思いが過る。

▼地球上に最初に霊長類が現れたのは一億年から7千万年前とのことであるから、人類は12万年前にこの暑さを経験していたことになる。つまり、人はこの暑さを過去に経験し、乗り越えていたのだ。数字に驚くと同時に、惑わせられてもいた。便利な数字ではあるけれども、数字の奴隷にはなるな、内なる感性をも信じろということだろうか。

▼更に、この異次元の暑さは温暖化だけのせいとは言えないらしい。太陽の活動や火山噴火も影響していて、まさに地球が沸騰している現象なのだという。現実の暑さを肌で感じ、その上今まで耳にしたことのない驚く数字。数字の魔力と魅惑に人は不安を感じてしまう。

▼あらゆる現象が数値化されている現代。しかし、その数字で幸せや不幸をはかってしまうのは科学的ではない。人間の幸せは数値で測り得ないところに有るのだ、きっと。信頼関係も、愛も、胆力も。的確な数を知り、数に逞しくなれとの教訓なのか。(神原藍)