
編集後記(2025年11月)
▼尾関里美先生率いる『第二十八回学芸書道展』を拝見しました。一般の方々のテーマは三色紙の臨書ということで興味深く、仮名の作品を中心に書制作されている尾関先生ならではの展覧会でした。
▼三色紙とは平安時代に書かれた仮名の名筆『継色紙』『寸松庵色紙』『升色紙』の総称で、この言葉が定着したのは昭和の初期頃。元々は冊子本でしたが、分割され色紙の形に成り、美術館や博物館に入っています。
▼日本に漢字が伝えられたのは弥生時代に遡ります。しかし日本人が漢字に早くから出会いながら、石や金属に刻み込まれた文字として遺されている物は五世紀前半頃になります。その頃は漢字を日本語の音を表わす文字として万葉仮名も使われていました。三色紙が書かれたのは十一世紀ですから、長い時間を経て名筆が育まれてきたことが解ります。
▼空海、嵯峨天皇、橘逸勢を三筆、三蹟や昭和の三筆等、書に関しても三という数字はよく使われています。古筆の中でも『寸松庵』は線質とともに緩急や強弱も明快ですし、『継色紙』は余白に魅力があります。現在、書を制作する上でも三色紙の修得は貴重な名筆です。
▼どんな分野に於いても確かな技術は人のメンタルを支えます。何千年と生きている古筆は、書制作のバックボーンとなり得ましょう。
(神原藍)