
編集後記(2025年5月)
▼書と文化に掲載の鄭道昭書「鄭羲下碑」を、今月より細字課題と引き換えに拓本課題として学びます。「鄭羲下碑」は雄大な自然の中、断崖に彫られた書。彫られた文字を拓本にとって習う事を碑学といいます。
▼対する帖学は、法帖に書かれた書を習う事です。晋の二王(羲之・献之)をはじめ魏・晋・南朝の楷、行、草書などの優雅な書は、六朝から唐時代に貴族社会に好まれ、書法の典型ともなりました。やがて文字は日本に渡来し、和歌や物語と共に漢字から仮名が生れ、古筆が創られました。帖学中心の墨成では繊細な筆を追いながら、自分の書をつくるべき努力をしています。
▼しかし更に、書作はもっと自由に大らかで伸びやかな気持ちにさせるものではないかと思っていたところ、昨年、鋸山(のこぎりやま)の山歩きをした小さな経験から、書芸術への観方が少し変わりました。お地蔵様が鎮座している鋸山と日本寺、包み込む自然は、雲峰山を想起させるものでした。成すべきことは何か、人としてどう在るべきか、後世へと繋ぐ使命感を持ち合わせているか、と迫られているようにも感じました。
▼鄭羲碑が建てられたのは父の没後二〇年のこと。鄭道昭は父・鄭羲の悪評を拭い去って、名誉回復をはかっての所業でもあるのでしょう。書かずにはおれない鄭道昭の緊張感が伝わってきます。(神原藍)