墨成

編集後記(2020年10月)

▼ 高校生の塚本菜月さんは「書は一瞬、字は一生」と素敵な言葉を寄せられました。実に的確な言葉で、字は一瞬で書けるけれども、書く人の全人格が表れていると言っても言い過ぎではない、自分の身体に覚え込ませた美しい形は、一生我が身と共に育ててゆくのだ、と表現されたのです。美しいという事は形ばかりではなく、生き方全てに顕れます。

▼自分の身から湧き出る文字は、筋肉や骨と同じように身体の一部と信じていますし、指・手・腕・体幹を使って生まれる線は、鍛えれば鍛えるほど表情が豊かになる。それがまた筋肉や骨と同じように身体そのものの芯になる、と。

▼更に嬉しい事は、先生と生徒に温かな感情が生まれていて、人間同士の信頼関係を築いておられる。先生は知識や興味や書く喜びや表現、或は悲しみなど、自分の中に息づいている生命を生徒に与え、成長を見守り、生徒の心を豊かにしようと愛情を注いでおられる一方、生徒の鼓動や喜びを感じ、共有されている姿が見られます。

▼人間を変えるのは教育と芸術と言われます。美しいものを見出すには美しい心がなければ見えませんし、自らの内面を耕さなければ、美しさの極みも解りません。書を通して人間同士の愛や信頼を深めていることが、生きてゆく中で無限の力となることでしょう。(神原藍)