墨成

編集後記(2019年3月)

▼三月号と新春展作品集を共にお送りできる目途がようやく立ち、寒く厳しかった冬を振り返っています。墨成新春展作品集は、どの派にも属さず、新聞社主催の書展にも強制的にならず、しかし自分の書をつくっていきたいという願いから出発しました。

▼時として創作をする苦しみは楽しみとなります。何千本の筆の毛を、意のままに運筆できるかできないか。我が身から現れ出た線を、納得出来るか出来ないか。過去の恥ずかしい自分を超えられたか。制作は孤独な作業だからこそ、自分の心の容量を大きくする贅沢な至福の時のように思えてきます。

▼現実社会は断崖絶壁の尾根を歩くようなもの、一歩誤れば転落しかけない、そんな危うい面があると感じています。現実は厳しい世の中ですが、自由に誰にも侵されない心、心の中こそ無限な世界が広がっているとも考えます。誰にも邪魔されず、迷惑をかけず、心の中に浮かぶ想像したものを表現する。目の前の現実のごたごたがあるからこそ、不純なものを取り除き、浄化させるのです。

▼それは現実の世の中に背を向けることではなく、客観的に物事を観て現象を抽象化させることでしょうか。きれいごとばかりではない現実の生活から、真実や美を見出して、普遍的な世界へと持ち上げてゆくことこそ、制作の醍醐味です。

(神原藍)